私がトレーニングコーチになった理由

〔12分間走〕
少年が所属していた高校野球部では、冬練習の最後は毎日のように12分間走だった。校庭の半分しか使用できないので、帽子を置いて簡易的なトラック、たぶん1周150mほどしかないトラックをつくり、1年生と2年生合わせて70名以上の部員が同時に走るのだ。だから、あっという間に周回遅れの選手が何人も出てきてしまう有様で、自分が何番目かなどはわからない混沌とした状況だった。唯一、確かなことは、先頭集団がどこかということだ。1年生の彼はと言えば、冬練習の最初の頃は真ん中より少し速いくらいで、先頭集団には、はるか遠く及ばない。
ところが、ある日のこと、最後まで先頭集団についていくことができた。少年は少しずつ自信をつけていった。そして、2月になる頃には、毎回トップ争いを演じるほどになっていた。彼は中学の野球部ではレギュラーにもなれず、身体も細く体力的にも全く自信を持てるものなどなかった。高校入学後も、より競争が激しい中で、何一つとして自信を持てないまま冬練を迎えていた。だから、この12分間走で得たこと、それは彼の人生にとって、とてつもなく大きなものとなった。「人は変われる」それが、少年が自分の身体で学んだことだった。
そんな16歳だった少年は、もう50歳を超えた。そして、彼のように自信などまったくない選手たちを指導する立場になった。
〔取り組む姿勢〕
「あー、楽しくない」ウエイトルームに入るなり、そうつぶやく選手。彼は以前から頻繁にネガティブな発言をしているのだが、そのたびごとに「楽しくなるか、ならないかはお前次第だろう。トレーニングに限らず、練習でも、仕事でもなんでも同じだよ」私は彼に伝える。もちろん、私の発言に対してもあまり聞く耳は持たない。
「楽しくないものは楽しくないから仕方ないじゃないですか」周りの選手が「あいつは何言っても変わらないですよ」と。そんな彼に、いくつかYouTubeの動画を送った。私自身が視聴して、人生に少しでも前向きになれるような、元気を与えてくれるような、そんな内容のものだ。送るたびに「昨日送った動画はどうだった?」感想を聞く。「あれは、ムリです」そんな返答が返ってくる。
3本目か4本目の感想を聞いたときに、「あれはよかったです」との返答が。その動画がきっかけなのかはわからないが、明らかに最近のトレーニングに取り組む姿勢が変わった。その日はスクワットがメインのセッションだった。多くの選手は、スクワットはしんどいので、自分の限界にチャレンジすることは避けがちである。しかし、そんなスクワットに、自分なりに力を出し切って取り組んでいる彼の姿があった。彼につられて、その日の彼のウェイトパートナーもいつもより真剣にスクワットにチャレンジしていた。間違いなくその日のベストパフォーマンスは、そのペアだった。
〔人は変われる〕
養老孟司さんによれば、7年経てば人の細胞は全て生まれ変わるという。そう、細胞レベルでは人は変わり続けているのだ。しかしながら、多くの選手は「自分には無理」「俺なんて何やってもだめ」というレッテルを自分自身に貼り付けてしまっている。おそらく、それは選手だけの問題ではなく、それまでに携わった大人たちの影響が大きい。選手や子どもたちに「お前には無理だ」「だから、お前は何やってもだめなんだ」そんな言葉を送り続けた。
そして、気づけば私自身もまた似たような言葉を選手に投げかけていたのだ。まだ変わり始めの初心者だが、真剣にスクワットをする彼を見て、私の原点を思い出すことができた。16歳の冬に初めて味わった「人は変われる」という経験。先頭集団の背中は、はるか遠かった。そんな自分が、いつの日かその先頭を引っ張る側になるなんて、冬練習が始まったときには想像さえできなかったのだ。
改めて思う、「人は変われる」。格好よく言えば、そのメッセージを伝えるために私はトレーニングコーチになったのだ。
『月刊トレーニングジャーナル』2020年12月号
■こんなチームや選手の力になれます!
「筋力はついたのに、パフォーマンスの向上に結びついていない」
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「予算が少ないので頻度多く呼ぶことができない」
→ 私の指導先は、ほとんどが公立高校です。月1回、あるいは2か月に1回のチームがほとんどです。
それでも、私が行かない時のプログラムを提供することで、十分、トレーニング効果を得ることができます
「中学生でも、トレーニングは導入したほうがよいのでしょうか」
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「なかなかチーム全員がひとつの方向をむけない」
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